国内初の郊外型店出店から10年。青山商事は1983(昭和58)年3月期、売上高100億円の大台を突破した。創業者の青山五郎氏はこの間を成長期と呼び、(1)郊外型店 (2)完全買い取り制 (3)多店舗展開による大量販売―といった独自のシステムを確立した時期とみる。
安くて良い紳士服を消費者に提供する―が創業以来の私のモットーだ。そのためには、なんといっても商品の仕入れ値を下げることから出発する。
年商100億円突破を記念して開かれた青山商事の謝恩パーティー。右から2人目が青山氏
(1983年、福山市内のホテル)
紳士服は、バーゲンセールなど工夫しながら上手に売っても、2割売れ残るのが普通といわれる。このため、小売店や卸は、シーズン後に売れ残った商品をメーカーに引き取ってもらう「委託仕入れ」と呼ばれる契約を結んでいた。
小売店側にとっては、売れ残りのリスクを回避できる。その代わりメーカーは、百貨店など小売店に自らの販売員を派遣し、店頭で販売にあたらせる。客の反応や売れ筋情報を収集でき、ブランドイメージを保つのにも都合良かった。引き取った商品は翌シーズンまで持ち越し、2年落ちとして4割引き前後で再び卸す。在庫管理にもメリットがある。
ただ、返品リスクや派遣販売員の人件費を上乗せする分、仕入れ値は高くならざるを得ない。つまり消費者は、業界の都合で高い紳士服を買わされていた。この商慣行ほど、おかしな仕組みはない。だから、委託仕入れという業界の盲点を突けば、良い商品を安く仕入れるチャンスが切り開けると思った。
そこで、うちが採用したのが「完全買い取り制」だ。シーズン初めに注文した全商品を現金で買い取り、返品しない仕入れ方式だ。売れ残りのリスクを負い、現金ですぐに支払う。返品、在庫管理費も掛からない。委託仕入れで2万円で卸していた商品を、15,000円に引き下げても、メーカー側に損はない仕組みだ。
完全買い取り制の導入で、スーツの販売価格を下げながら利益も確保できる。さらに、郊外型店で経費を抑え、当時、一着7万―8万円していたスーツとほぼ同じ商品を、半額の3万―4万円で売った。粗利益率は業界平均を上回る50%強だから、決して薄利多売ではない。
この高い利益率によって、大量の広告宣伝費を投入し、店の集客力を一層アップさせた。売上高が増え、大量発注を可能にし、さらに安い仕入れにつなげた。このサイクルによって、全国をにらんだ多店舗出店態勢が整い、念願の株式上場も視野に入ってきた。郊外型店の紳士服といえば「安かろう悪かろう」と見る向きもあったが、品質でも、どこにも負けない自信はあった。実際に着てみたお客さんが、分かってくれた。
(古川竜彦)
出典 : 平成18年4月8日
中国新聞朝刊掲載